大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和33年(ワ)2582号 判決

原告 ホンダモーター販売株式会社

右代表者代表取締役 石塚秀男

右訴訟代理人弁護士 高沢正治

被告 井村テル

外五名

右被告六名訴訟代理人弁護士 品川孝

主文

被告井村恵宥は原告に対し金百十四万九千円及びこれに対する昭和三十三年四月二十一日以降右完済に至るまで年六分の割合による金員を支払え。

原告のその余の請求を棄却する。

訴訟費用は原告と被告井村恵宥を除くその余の被告等との間においては原告の負担とし、原告と被告井村恵宥間においては原告について生じた費用の三分の一は原告の負担とし、その余の費用は被告井村恵宥の負担とする。

この判決は原告勝訴部分に限り原告において金三十五万円の担保を供するときは仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、訴外井村博が昭和三十年一月二十一日原告会社に雇われ昭和三十二年十月十二日原告会社を解雇されたこと、訴外井村自助及び被告恵宥が訴外井村博の原告会社入社にあたり身元保証をしたこと、被告等が訴外井村自助の相続人であることは当事者間に争いがない。

原告は右身元保証は連帯保証であると主張するが、成立に争いがない甲第一号証にはかかる記載がなく証人沢野実の証言によつても「連帯」であることを認めることはできない。

二、原告は被告恵宥を除く被告等は訴外井村自助の身元保証債務を相続したと主張するが既に現実に損害が発生した後に相続があればその賠償義務は相続されるが、いまだ損害が現実に発生していない間に相続があつた場合には、その身元保証債務はいまだ現実化されていない、いわば身元保証人たる地位にすぎないところ、身元保証契約は保証人と被保証人間の相互の信用を基礎としているものであるから、右のごとき身元保証債務は被告等に承継されないと解すべきである。してみると被告恵宥を除くその余の被告等は原告に対し、身元保証に基く損害賠償義務を負担せず原告の本訴請求中これら被告等に対する請求は他の点について判断するまでもなく失当として棄却すべきものである。

三、証人沢野実の証言によれば訴外井村博が原告会社に雇われ中、原告主張のとおりその職務上集金したホンダドリーム号オートバイの販売代金百三十万四千円を着服横領し、原告会社に同額の損害を与えたことを認めることができる。訴外井村博が右原告主張のとおり合計金十五万五千円を支払つたことは当事者間に争いがない。

四、被告恵宥は、原告会社は訴外井村博を見習社員として雇い入れた後販売並に集金係に職務を変更したのにこれを身元保証人に通知しなかつたと主張するが、証人沢野実の証言によれば、原告会社は新聞広告により販売並に集金係を募集したところ訴外井村博はこれに応募したもので同訴外人は最初見習社員として三ヶ月の販売並に集金に関する教育訓練期間を経過した後正社員となり販売並に集金業務に従事するに至つたことが認められ右認定を左右するに足る証拠はない。右事実によれば原告会社は、最初から訴外井村博を販売並に集金係として雇い入れたものであつて、見習社員が正社員となつたとしても、これをもつて身元保証に関する法律第三条第二号の場合に該当するものということはできない。その他の被告主張のごとき身元保証人の責任を軽減すべき事情を認めるに足る証拠はない。

五、してみると被告恵宥は身元保証人として原告会社に対し金百十四万九千円及びこれに対する本件訴状送達の翌日であること記録上明白な昭和三十三年四月二十一日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、右義務の履行を求める原告の被告恵宥に対する請求は正当としてこれを認容すべきである。よつて訴訟費用について民事訴訟法第八十九条第九十二条第九十三条、仮執行の宣言につき同法第百九十六条を各適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 岡松行雄)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例